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RustでRaft Consensus Algorithmを実装した

2025-12-24

分散システムにおける合意形成アルゴリズムとして知られている Raft を、Rust で実装してみた。この記事では、Rust の型システムとトレイトを活用した設計について紹介する。

なぜ Rust で分散システムを実装するのか

分散システムの実装では、データ競合や状態不整合が実行時エラーを引き起こす可能性がある。また、拡張性を確保しつつ実装の誤りを防ぐ必要があり、複数ノード間の通信でスレッド安全性を保証する必要もある。

これらの課題に対して、Rust の型システムとトレイトを使うことで、抽象インターフェースを定義し実装の誤りをコンパイル時に検出できる。さらに、所有権システムによりデータ競合をコンパイル時に防げるため、並行処理の安全性を保証しやすい。

この記事では、ikada という、Raft の論文のコア機能を実装したライブラリを例に、型システムとトレイトをどう活用したかを紹介する。

実装した主な機能:

  • Leader Election (リーダー選出)
  • Log Replication (ログレプリケーション)
  • Safety Guarantees (安全性の保証)
  • State Persistence (状態の永続化)
  • Client Interaction (クライアントとの通信)

アーキテクチャ概要

状態管理:型で仕様を表現する

Raft の論文 Figure 2 には、ノードが管理すべき状態が定義されている。これを RaftState 構造体で忠実に実装した:

pub struct RaftState<T: Send + Sync, SM: StateMachine<Command = T>> {
    // Persistent state on all servers(永続化が必要)
    pub persistent: PersistentState<T>,

    // Volatile state on all servers(揮発性)
    pub commit_index: u32,
    pub last_applied: u32,

    // Volatile state on leader(Leaderのみ)
    pub next_index: HashMap<SocketAddr, u32>,
    pub match_index: HashMap<SocketAddr, u32>,

    pub role: Role,
    storage: Box<dyn Storage<T>>,  // トレイトオブジェクトで抽象化
    sm: SM,                        // ジェネリクスで型安全性
}

永続化が必要な状態を PersistentState 構造体として物理的に分離している。これにより、再起動時に復旧すべき状態が型として明確になる。また、型パラメータ T: Send + Sync でコマンド型を抽象化し、SM: StateMachine<Command = T> でステートマシンを差し替え可能にしている。

ノードのロールは Enum で表現している:

#[derive(Debug, Clone, Copy, Default, PartialEq)]
pub enum Role {
    #[default]
    Follower,
    Candidate,
    Leader,
}

Enum によって、ノードのロールが常に3つのうちいずれか1つであることが保証される。

トレイトと型システムによる設計

Rust の型システムを活用した設計について説明する。

1. StateMachine トレイト:拡張可能な状態機械

Raft は合意形成のコアアルゴリズムで、実際にどんな状態機械(State Machine)を動かすかはユーザー次第である。StateMachine トレイトを定義することで、任意の状態機械を統合できるようにしている:

#[async_trait::async_trait]
pub trait StateMachine: Send + Sync {
    type Command: Send + Sync + Clone;
    type Response: Send + Sync;

    async fn apply(
        &mut self,
        command: &Self::Command,
    ) -> anyhow::Result<Self::Response>;
}

インターフェースはシンプルにしている。apply メソッド1つだけを定義し、コマンドを受け取って結果を返す形にした。CommandResponse を関連型にすることで、ユーザーが任意の型を指定できる。したがって、Key-Value Store、データベース、計算エンジンなど、様々な状態機械に対応できる。

また、Send + Sync 制約により、コンパイラが自動的にスレッド安全性をチェックする。これにより、マルチスレッド環境で非スレッド安全な型を使った場合、コンパイル時にエラーとなる。

デフォルト実装として Key-Value Store を提供している:

// デフォルトのKVストア実装
#[derive(Default, Debug)]
pub struct KVStateMachine {
    data: HashMap<String, String>,
}

#[derive(Clone, Debug, Serialize, Deserialize)]
pub enum KVCommand {
    Set { key: String, value: String },
    Get { key: String },
    Delete { key: String },
}

2. Storage トレイト:永続化層の抽象化

Raft の状態を永続化するため、Storage トレイトを定義している:

#[async_trait::async_trait]
pub trait Storage<T: Send + Sync>: Send + Sync {
    async fn save(&mut self, state: &PersistentState<T>) -> anyhow::Result<()>;
    async fn load(&self) -> anyhow::Result<Option<PersistentState<T>>>;
}

このトレイトにより、バックエンドの切り替えが容易になる。したがって、メモリ、ファイルシステム、データベースなど、実装を差し替えるだけで対応できる。例えば、テストではメモリストレージを使い、本番環境では永続化ストレージを使うといった使い分けができる。

3. RaftRpc トレイト:型安全な RPC 定義

ノード間通信には tarpc を使用し、RPC インターフェースをトレイトで定義している:

#[tarpc::service]
pub trait RaftRpc {
    async fn append_entries(req: AppendEntriesRequest) -> AppendEntriesResponse;
    async fn request_vote(req: RequestVoteRequest) -> RequestVoteResponse;
    async fn client_request(req: CommandRequest) -> CommandResponse;
}

リクエスト/レスポンスの型が一致しない場合、コンパイル時にエラーとなる。また、tarpc が自動的にクライアント/サーバーコードを生成するため、ボイラープレートを書く必要がない。

4. 共有状態の安全な管理

分散システムでは状態の共有が不可欠だが、Rust の所有権システムと調和させる必要がある。そこで、Arc<Mutex<RaftState>> を使用することで、安全な共有可変状態を実現している:

pub struct Node<T: Send + Sync, SM: StateMachine<Command = T>> {
    state: Arc<Mutex<RaftState<T, SM>>>,
    // ...
}

Mutex により、同時に1つのスレッドしか状態を変更できないため、データ競合を防げる。Arc により、どのスレッドが状態を共有しているか追跡でき、参照カウントが0になると自動的にメモリが解放される。

ただし、Rust の型システムは「Mutex 保護領域を触るにはロックが必要」という制約を保証できるが、デッドロックや非同期コンテキストでの .await をまたいだロック保持、タスク飢餓などは別途設計で対処する必要がある。これらの課題については「今後の展望」セクションで触れる。

なお、各種通知に関してはチャネルで実装した。Go と似たメンタルモデルで実装できたのは、Go の経験が生きたように感じた。

Raft アルゴリズムの実装

Rust の型システムを活用した設計について説明してきたが、次に Raft の具体的なアルゴリズム実装について触れる。

Leader Election:非同期並列処理

Follower は一定時間 Leader からのハートビートを受信しないと、Candidate に遷移して選挙を開始する。すべてのピアに並列で RequestVote RPC を送信する。

// Request votes from all peers in parallel
let mut tasks = JoinSet::new();
for (addr, client) in peers {
    tasks.spawn(Self::send_request_vote(addr, client, req, rpc_timeout));
}

// Collect responses
while let Some(result) = tasks.join_next().await {
    // レスポンスを収集
}

tokio::task::JoinSet を使用することで、複数の RPC を並列実行している。過半数の投票を獲得すると Leader に遷移する。

Log Replication:並列実行

Leader は AppendEntries RPC を使って Follower にログエントリを複製する。Log Replication も並列実行している。各 Follower の next_index に基づいて送信すべきエントリを決定し、並列で AppendEntries RPC を送信する。

今後の展望

現在の実装は Raft のコア機能に焦点を当てているが、実用化に向けていくつかの機能を追加していく予定である。

まず、Cluster Membership Changes(論文§6)と Log Compaction and Snapshots(論文§7)の実装である。これらにより、クラスタの動的な構成変更とストレージ使用量の削減が可能になる。

また、AppendEntries 失敗時の nextIndex 調整については、論文に記載されている最適化(conflict term と conflict index)を実装することで、ログの整合性を効率的に取ることができる。単純に nextIndex -= 1 とすると最悪 O(n²) の時間がかかるため、この最適化は重要である。

統合テストについては、ネットワークパーティションやクロックスキュー、メッセージの重複・遅延など、実際の分散環境で発生する障害シナリオのテストを充実させていく予定である。

最後に、パフォーマンス測定と最適化を行う予定である。現時点では機能の正確性を優先しているが、実用化にはスループットとレイテンシーの改善が必要になると思う。

まとめ

Rust で Raft を実装してみた。型システムとトレイトを活用することで、安全かつ拡張可能な設計ができたと感じている。

トレイトによる抽象化は有用だった。StateMachineStorageRaftRpc など、インターフェースを明確に定義することで、ユーザーが独自実装を差し込める拡張性を確保できた。また、型システムによる安全性も重要で、Send + Sync 境界やジェネリクスにより、コンパイル時にスレッド安全性や型の整合性をチェックできる。さらに、所有権システムは、Arc<Mutex<T>> によるデータ競合の防止と、明確な所有権管理を実現する。

一方で、型システムだけでは防げない複雑な安全性ルールも存在する。例えば、現在の term のエントリのみコミットするという Raft の安全性ルールは、ロジックとして実装する必要がある。したがって、これらは明確な構造体設計と単体テストで補完している。

分散システムの実装は難しいが、Rust の型システムを活用することで、実行時エラーをコンパイル時に検出できる。これにより、安全性と開発効率の両立がしやすいと思う。

興味のある方は、GitHub リポジトリをご覧いただきたい。

参考文献